彼女は、シロウと治療の度にいろいろなゲームを行ったようですが、その中で彼女はあることに気付きます。
実生活においては、決まりごとにとらわれ、「階段は右足が先」とか「出かけるときはこれとこれを持って」など自分を縛りつけ、身動きが取れない強迫神経症のシロウが、ゲームの中では大胆かつ勇敢になるそうです。
ダンジョン系のゲームで、彼女が、装備品として武器や薬草を慎重に揃えているのに対して、シロウは装備もそこそこに町を出て、独特のゲーム勘で次々と課題をこなしながら、目的地に着くことができるのです。
ゲームの中では、むしろ彼女の方が強迫神経症なくらいです。
このことからゲームという仮想空間の中では、精神的疾患を持っていてもそれが表面に現れないということに気付いたそうです。
シロウの他にも離人神経症のカスミ君の例もあげています。
離人神経症というのは、「周囲に現実感がない」「自分が自分だと思えない」など自分や世界に関して複雑な症状に襲われ、それに強い苦痛を覚えるというとても辛い病気です。
カスミ君は中学校を卒業する頃、突如としてこの症状に見舞われ、身動き一つ取れなくなって、彼女の勤める病院に来たそうです。
母親を見ても「本当にこの人が自分の母親?」と思ってしまったり、風景にも遠近感が感じられず、一枚の絵のように見えてしまったりそうです。
ひどいときは、クラクラするといってベッドから一歩も動けないという状態になるようです。
そんなカスミ君と最初はベッドで一緒に座りながら、マンガ雑誌を読んだり深夜放送を録音したカセットテープを聞いたりしながら時間を過ごしたそうです。
しばらくして歩いていけるようになったカスミ君と一緒にゲーム機のある面接室に行ったそうです。
かつては、ファミコンもやっていたという、カスミ君は、そのゲーム機に興味を示しました。
そこで、画面がめまぐるしく変化するゲームは避けて、「オホーツクに消ゆ」という初期のアドベンチャーゲームをやらせたそうです。
アドベンチャーゲームは、画面に出てくる静止画を見ながら、いくつかの選択肢の中から、次の行動を選択して事件などを解決していくゲームです。
彼女は、カスミ君が毎日楽しそうに推理に取り組んでいる様子を見ながら、不思議な思いになったそうです。
このゲームでは、プレーヤーがの主人公の視点で、室内や事件の現場を見ていくことになります。
現実の世界では、常に「自分が自分だという実感がない」と感じているため、売店で買い物をするときでも「次に何をすればいいのかわからない」と動作が止まってしまうカスミ君が、ゲームの中では、タイヤの跡を調べたり、居酒屋に入って主人に聞き込みをしたりしているのです。
学校、家庭といった彼にとっては刺激の大きい場面でも全く抵抗なくニコニコしながら課題を処理していき、無事にエンディングまでたどり着くことが出来ました。
ゲームをやっている最中に「これをやっているのは本当の自分なのだろうか?」という離人症状に襲われることは一度もなかったそうです。
このようにゲームの世界では彼らが、自由に振舞えるからといって、現実の世界ですぐに症状が回復するというわけではありませんが、このような仮想体験は、心の治療に少なからず役立つと思われます。
これまでの例でわかることは、ゲームはひとの心に優しいということです。
どんなに疲れて帰って来ても、ゲーム機の電源を入れれば、いっもの仮想世界が待っていてくれます。
そこには、怖い怪物もいますが、信頼できる仲間もいます。
そんな仮想世界に浸ることで、いつしか疲れも取れ、心が休まります。
そんな体験を求める子供を責められるでしょうか?
現実の世界では、人とまともに話すことができない子供が、ゲームの世界では、街行く人に声をかけ、ゲームの核心へと敵を倒しながら進んで行く、そんな様子を端からみれば、なに一つ障害を感じない。
ゲームをすることで、いきなり強迫神経症や離人神経症が治癒するわけではないでしょうが、こういった体験が重なれば、現実の世界でも人と話すことが苦痛ではなくなって来ると思います。
彼女のところへやって来る患者も、ゲームをしただけですぐに立ち直るわけではありません。
ゲームを含めていろいろ治療を行っているうちにいつしか回復して退院していくのだそうです。
従って、彼女もゲームが遊戯療法として適切かどうかまでの核心はつかめていないようですが、少なからず効果があることは感じているようです。
考えてみれば、推理小説に入り込んで仮想世界をイメージしている自分とゲームで仮想世界に入ってゲームをしてる自分の差はそれほどないのではないか?
ゲームで仮想世界を体験することが悪いことなら、推理小説を読むことも禁止しなくてはいけないのではないかと思います。
つまり、ゲームは推理小説が読めなくても、プレーヤーに仮想世界を体験させてくれるひとつのツールにしか過ぎないと思います。
そして、重い神経症を患っている患者にもゲームはやさしく手を差し伸べてくれます。
今では、ゲーム機を買わなくても、パソコンとインターネット環境があれば、いくらでも仮想世界を体験することが出来ます。
このような仮想世界が、彼らの治療に役立つことを期待します。
参考文献:『テレビゲームと癒し (今ここに生きる子ども)』(香山リカ)
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考えさせられました。
でも。。。
「ゲーム脳」という、やりすぎで起こる悪影響を健常な子どもの脳には与えてしまっているのでは?
コメント有難うございました。
ゲーム脳というのは、森昭雄著『ゲーム脳の恐怖』の話ですね。
あの説にも賛否両論があって、エセ科学という説もあります。
川島隆太教授によるとゲームをしているときの脳は、ダンジョンやシューティングゲームをしているときは、脳の一部しか活性化していないため、ゲームをやっても脳が活性化することは望めないとあります。
でも、ゲームクリアしたときの達成感はA10神経を刺激して満足感を与えてくれるはずです。
たぶん、このあたりのバランス関係が大切ですね。
このあたりの概念もこれから解説していきたいと思います。
貴重なご意見、有難うございました。