その精神科医の名前は香山リカさん、私と同じくインベーダ世代の方です。
私は、ゲームセンターのゲームにははまらず、ゲームセンターに似たゲームをパソコンで楽しむ方を好みました。
しかし、彼女は、どっふりとゲームにはまり、ゲームセンターのトップランクに書いてある見ず知らずのゲーマーに対抗心を燃やしたりしていたようです。
そして、ファミコンが発売されると、ドラクエシリーズ、ファミスタなど様々なゲームを楽しんだようです。
そんな彼女が選択した職業は、精神科医でした。
はたから見ると一見関係のないテレビゲームと精神科医という職業が、ある少年の臨床治療で思わぬ展開を示します。
その少年は、5才の当時勤務していた病院の看護師さんの子供です。
その子は、患者ではないのですが、家や近所の友達とは話せても、幼稚園などでは、一言も言葉をしゃべらない「選択的場面緘黙症」という症状だったそうです。
香山さんが「お名前は?」「お年は?」と質問をしても何の返事もありません。
彼女もやはり、簡単には無理だなと思ってその子と部屋を出ようとしたとき、彼女の胸ポケットに刺さっていたボールペンを見つけて「あっ」と喋ったそうです。
そのボールペンの頭のところに「ドラゴンクエスト」でおなじみのメタルスライムというキャラクタの人形が付いていたのです。
彼女が、「どう、いいでしょう。メタルスライムだよ。」といったところ、その子は堰を切ったように
「あのね、メタルスライムを倒すとね経験値が千も増えるんだよ、
あと、最強の呪文って知ってる? びっくりだよ、教えてあげようか?」
次から次へと出てくる言葉は、緘黙とは全くいえないほどの饒舌と興奮だったようです。
ゲームという共通点を切り口に少年が心を開いたわけです。
このことをきっかけに彼女は、精神科の臨床医の道を歩こうと決意したようです。
この時代(1990年前後)は、まだテレビゲームの認知が低く、時には、テレビゲームが少年犯罪の引き金になるというように思われていた時代でした。
そんな中で、テレビゲームに癒しの可能性を見つけた精神科医がいたわけです。
数年後、彼女の患者として現れたシロウという少年は、極度のこだわり症で、強迫神経症という病名に分類される小学5年生の少年でした。
大人に対して、極度の警戒心を持つシロウは、少しでも気にさわることを言うとパニック状態に陥って、診察室の床を転げ回ってしまいます。
前任者からシロウを引き継いだ時に受け取った彼のカルテには、「遊戯療法」だけが唯一シロウの心を和らげると書いてあったそうです。
遊戯療法というのは、医師と患者がスポーツやキャッチボール等を一緒に楽しむことで患者の心を開く治療法だそうです。
しかし、体力に自信のない彼女は、とても少年とスポーツやオモチャ遊び(ミニ四駆だったようです)では少年の相手にはならなかったようです。
シロウの相手をするうちにシロウがゲーム好きであることがわかりました。
「先生、『ドラクエU』やった?」
「もちろんだよ。」
「最後のダンジョン、すぐ抜けられた?」
「いやー、それが苦労して抜けた直後の『ほこら』で、間違って『泉』に飛び込んだら、また入り口に逆戻り」
「えー、それはバカだなぁ。」
これは、同じゲームをやったことがある人間でないとできない会話です。
それを解くまでに何十時間も費やしたということが一瞬にしてわかる会話なんです。
この会話をきっかけに彼女とシロウの間の溝は塞がったようです。
そして、彼女は、病院にテレビゲームを持ち込んで治療として少年とテレビゲームを楽しんだということです。
シロウ少年は、ゲームの世界では、勇敢で細かいことには全く気を使わずゲームの世界をどんどん進んで行き、とても心に障害を持っているとは思えなかったそうです。
つまり、ゲームの世界では、精神障害が現れないというのです。
長くなりましたので、続きは次回へ
〈続く〉
参考文献:『テレビゲームと癒し (今ここに生きる子ども)』(香山リカ)
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